荒野の果てに嫁ぐもの

荒野の果てに嫁ぐもの

荒野の果てに嫁ぐもの 目次

 

荒野の果てに嫁ぐもの

 

舞台は、荒野の国とも呼ばれる「ガーシュイン国」

 

その西の端にあるアヴァロン城へと嫁ぐはずだったアレジア嬢の身代りになって、
縁談に臨むのは彼女に仕えるリシルだった。

 

女装してまで、命の恩人を守ろうとするのですが…。

 

 

※ この作品は「小説になろう」で発表していたものです。加筆修正して公開しています。

 

荒野の果てに嫁ぐもの

 

■ 目次 ■

 

 第1話 決意

 

 第2話 荒野の果ての城

 

 第3話 不可解な鼓動

 

 第4話 失態

 

 第5話 驚きと安堵と疑問と

 

 第6話 男の花嫁?

 

 第7話 忘れていた想い

 

 第8話 熱

 

 第9話 新天地で

 

 第10話 無垢な癒し手

 

 第11話 帰城

 

 第12話 罰としてキスを

 

 第13話 アルヴァーの想い

 

 第14話 心浮き立つ提案

 

 第15話 婚前旅行へ

 

 第16話 満天の星空の下で

 

 第17話 無自覚な想い

 

 第18話 嫌な予感

 

 第19話 迷子

 

 第20話 都へ

 

 第21話 衝撃

 

 第22話 失望の現実

 

 第23話 危機

 

 第24話 苛立ちと強い決意

 

 第25話 帰国

 

 第26話 恩人との再会

 

 第27話 叶わぬ、想い

 

 第28話 知らなかった真実

 

 第29話 意外な訪問客

 

 第30話 リシルの答え

 

 第31話 再会

 

 第32話 逃したくない

 

 第33話 昔語り

 

 第34話 事の真相

 

 第35話 祝福された結婚 ☆

 

 第36話 約束の地で 完結

 

 

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前の話へ 目次へ「主はケダモノだったんですね」呆れたように溜め息を吐くディータに、リシルは赤くなった顔を向けることができないでいる。結婚式から三日が過ぎた頃、ようやくベッドから起き上がれるようになったリシルの元に、世話を焼くディータの姿があった。結婚式の翌日からリシルが熱を出したとは聞いていたが、ア...

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前の話へ 目次へ 次の話へ自分の頭上を越える視線を辿って振り向くと、アレジアの家の方から歩いてくるディータの姿が見えた。朝食の用意ができた、と言っているようだ。「ったく、あいつはどこまで邪魔をすれば気が済むんだ」苦々しくぼやくアルヴァーの横で、もしかしてキスをしていたところを見られたかもしれない、と...

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前の話へ 目次へ 次の話へアレジアの話から、自分の元へと薬草を持って現れたアルヴァーの姿が目に浮かんだ。きっとその時と同じく、弟のために死に物狂いで薬草を探し回ったのだろう。アルは優しい人、だから……。その想いに胸が熱くなる。そして、アルヴァーを好きになってよかった、とリシルは心底思うのだ。「後から...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「泣き顔も可愛いが、そろそろ泣きやんでくれないか?」「だって…、あなた、が……っ」責める言葉は続かなかった。ついばむように唇に落ちたキスが、だんだんと深さを増したから。「んっ、…ふ」息が苦しくなった頃、ようやく唇は解放されて、代わりに身体は逞しい腕に拘束される。リシルを胸に...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ朝の柔らかな日差しが作る木漏れ日の下で、二人はしばらく黙ったまま、アレジアの家の向こうに広がる景色を見つめていた。沈黙の合間に、風が木の葉を揺らす音や、小鳥のさえずりが入る。その静けさに耐えかねて、リシルが俯いた顔を横に向けると、微苦笑を浮かべたアルヴァーと目が合った。それ...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「思ったより、お早いご到着でしたね」ディータの穏やかな声が左手から聞こえた。そちらに視線を巡らせると、彼はいつもの笑みを浮かべ、玄関のドアの方を向いているようだ。対峙する相手が見たくて顔を傾けると、その人物が見える前に低い声が耳に届いた。「ヤニスが全部吐いたぞ。おまえが俺を...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「アルヴァー様が、あなたを捜していらっしゃいます」「…っ」その言葉に、リシルは息を飲んだ。ディータとの再会で、もしかしたら……と芽生えた期待に応えるような言葉。アルが、私を……?跳ねた鼓動が、嬉しさに速さを増す。名も無き村でアルヴァーと別れてから、早ひと月半。まだアルは、自...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「どうして、それを教えてくれなかったのですか?」そんなつもりはなくても、自然と恨み口調になってしまう。せめてアヴァロン城に行く前にすべてを知っていれば、身代りの計画ももっとうまく立ち回れたと思うからだ。そして、感謝とともに、アルヴァーへの恩返しもできたはず。こうして、離れて...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「香りもだけど、味も好みだわ」そう言ったアレジアの感想は、リシルの耳には届いていなかった。アヴァロン城でこのお茶を飲んでいた場面が次々と思い出されて、不意に頬を、ぽろりとなにかが伝い落ちる。ぱたっとテーブルに落ちたのは、一粒の涙だった。「リシル?」訝しげなアレジアの声に、は...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「はい」と返事をしながらリシルが顔を向けると、そこにはアレジアの真摯な瞳があった。「私に隠していることはない?」「えっ?」不意打ちの問いに、リシルの胸がどきりとする。うろたえて目を泳がせてしまい、とっさには動揺を取り繕うことができない。「どうして……、そんなことを?」強張っ...

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前の話へ 目次へ 次の話へファルタ行きの馬車に乗って、走ること丸一日。そろそろ陽も落ちようかという頃になって、目的地の町外れにたどり着いた。緩やかな丘陵に、ぽつぽつとレンガ造りの家が点在する小さな町だ。町の小ささゆえか、見かけた人に尋ねると、すぐにバートラムの家はわかった。そう遠くなさそうなので、歩...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「片付けは私がするのに」「いえ、ティアは休んでいてください。これくらいは、わたしにもできますから」「そう? じゃあ、ちょっと横になるね」少し青ざめた顔で微笑むと、ティアは幌馬車にしつらえた簡単な寝床へと向かった。その後姿を見送って、リシルは昼食の後片付けを始める。二人に出会...

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前の話へ 目次へ 次の話へ幌馬車は崩れた家の土壁のそばに置かれ、土間の跡らしき地面で燃え盛る焚き火が、まわりの壁を煌々と浮かび上がらせている。街の外れにあたるのか、人の気配はなく、物寂しい場所だ。椅子代わりの木箱に腰掛けて、腫れていた左足の手当てを受けたリシルに、出来たての食事が手渡された。溶けたチ...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へふと気がつくと、薄暗い明かりが見え、笑いさざめく人の声と、酒や料理のにおいが漂っている場所へときていた。狭い路地の先に、数軒の屋台とそこで飲食を愉しんでいる人々の姿が見える。そのにおいにつられて、リシルの腹がくぅと鳴った。こんな時も、お腹は空くんだ……。それが滑稽で、リシル...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へアル、どうして……? 自分を伴侶にと望んでくれていたのに、なぜ? 今までのことは、あの言葉は、全部嘘?そんなはずはない、と信じつつも、疑問は次から次へとリシルの胸に浮かんでくる。アルを信じたい。でも……。眼差しに溢れんばかりの想いを込めるが、アルヴァーの瞳からは何も読み取れ...

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前の話へ 目次へ 次の話へトルテュを発って、次の日の夕方には、一行はガーシュイン国の首都ガウィルへと到着した。途中の一泊は、小さな町のクレオの親類の家へと世話になり、ガウィルではクレオの妹の家で歓迎を受け、そのもてなしにリシルは恐縮するばかりだ。その上、事情を知らされたクレオの妹のニーナには、連れが...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「その髪の色、ここじゃあんまり見かけないからさ」そう言われて、確かにこの街では黒髪や茶髪の人ばかりで金髪は珍しいのかもと思う。この街だけが、というより、この国では自分のような外見は異端なのだろう。道理ですれ違う人の視線が多い気がしたが、却って目立った方がディータたちに居場所...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「早めに終わらせる」そう言ったアルヴァーの言葉を胸に、幌馬車の揺れに身を任せて三日目の昼。リシルたち一行は、目的地であるトルテュへと着いた。アルヴァーがいなくなってから、せっかくの道中もどこか上の空だったリシルだが、さすがにこの街の大きさには驚き、物珍しさにあちらこちらに目...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ翌朝も快晴だった。昨夜は夜更けまで、星を見ながらアルヴァーといろいろ語り合ったリシルだが、目覚めは思ったよりすっきりしていた。自分が孤児院育ちだったことや、今まで生きてきた環境など、深く話せなかった部分も問われるままに打ち明けることができ、また、それをなにも言わずに受け入れ...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へあの時に自分がどんな格好をしていたか、を思い出すと、リシルは顔から火が出るほど恥ずかしいと思った。アレジアに報いたい一心で必死になっていたが、今から思うとずいぶんと滑稽な姿だったと思う。それを可愛いと思ったなんて……。恥ずかしさに消せるものなら消し去りたいと思うような過去だ...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へそれから、三日ほど経ったある日。待ちに待ったトルテュへの出発の朝がやってきた。売り物の薬草の準備などで、急がせてもそれが精一杯だったとディータに聞いて、自分が言った迂闊な願いを申し訳ないと思いつつ、リシルの気持ちは舞い上がっていた。アルヴァーとともに軽い足取りで、馬車が引き...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へそれから数日間、アルヴァーは城内で片時もリシルのそばから離れず、その構い様は側仕えのディータを呆れさせるほどだった。陽が昇る前からリシルの部屋に赴き、起床後の身支度を手ずから整えるとアルヴァーが言い出した際は、お互いがお互いの身支度をすると言い張り、ディータの仲裁で一日おき...

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前の話へ 目次へ 次の話へ一方のリシルは、アルヴァーの右隣の席についたものの、配膳される朝食にぼんやりと目を落として微動だにしない。明け方にうつらうつらした程度でよく眠れておらず、頭がぼーっとしている。その原因とも言えるアルヴァーの顔は、当然見られないままだ。いろいろ考えるのに疲れて、思考が麻痺状態...

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前の話へ 目次へ 次の話へようやく自分のベッドに下ろされたリシルは、頭から足の先まで掛け布を被って、その身を隠してしまった。その頑なな様は、アルヴァーがなにを言っても解けそうにもない。アルヴァーは、派手に溜め息を吐くと、「後でディーにこさせる」と言い置いて、足音も荒く部屋を出ていった。ドアの閉まる音...

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前の話へ 目次へ 次の話へ「できないと言うなら、その度にキスをすることにするか」「え…、ええっ!?」思いもよらないことを言われ、リシルの目が点になる。どうして、そうなるのだろう? 「アル」と呼ばなければ、キスの罰があるというのだろうか?理解不能とばかりにリシルが見上げるのに、アルヴァーの瞳は至極真面...

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前の話へ 目次へ 次の話へ訊いてはいけないことだったのだろうか、とリシルが心配になった頃、ようやく口を開いたディータは「それは直接お聴きになってはどうでしょうか」と言葉を濁した。そして、「休憩しましょう」と席を立ち、お茶の用意をしてきます、とお辞儀をして退室する。その後姿を見送りながら、リシルはため...

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前の話へ 目次へ 次の話へきっとアルヴァー様のお人柄なんだろうな。その地を統治する者によって、そこに住む住人も影響されるのだろう、とリシルは素直に思う。アルヴァーを始め、ディータやここの人達にあたたかい雰囲気を感じる。とても居心地の良い空気を。それなのに、やむを得ない事情があったとはいえ、そんな人た...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「もう下げてよろしいですか?」「はい、…すみません。残してしまって…」柔らかいパン粥や熟した果物を搾ったジュース、とろとろに煮こんだスープなど、どれも美味しいものだったが、普段から小食のリシルは、熱が引いたばかりとあって数口ずつしか口にできなかった。残すのを申し訳なく思って...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ熱…い。荒い息の下、朦朧とする意識の中で、リシルは重い身体を持て余していた。手を上げることさえ叶わない気だるさに、滲み出る汗を拭うこともできない。まとわりつく掛け布も鬱陶しく不快に思える。久しぶりに熱を出したのは、長旅の疲れと無理をしたせいだ。薬を塗ってもらった左足も早々に...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「赤くなって、おまえは本当に可愛いな」ベッドについた片腕に体重を乗せ、腰を浮かせたアルヴァーがリシルの方へと近づく。大きな影に迫られ、リシルは恐怖に顔を引きつらせた。もうこれ以上は、後ろに下がれないところまで追い詰められている。伸ばされた右手が熱くなった頬に触れると、リシル...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「なんだ?」ゆるりとくつろぐ姿勢で先を促すアルヴァーに、リシルは少し迷いながらも疑問を口にした。「なぜ、わたしにこのような扱いを……?」「なにか足りないものでもあるのか?ああ、食事がまだだったな。昼もとっくに過ぎているし、俺も腹が空いたところだ」と、横を見やると、「すぐにご...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へそういう背景があるから、この人はあんなに怒ったんだ。激高の理由が腑に落ちて、そっとアルヴァーに目を移す。静けさを取り戻した瞳が、じっと自分に注がれているのを見て、慌ててリシルはそっぽを向いた。今の扱いとさっきとの落差に、なんだか落ち着かなくなる。なぜこの人は、こんな目で自分...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へゆらゆらと身体の揺れている感覚が、ふわりと雲の上に寝転んだような感触に変わった。柔らかいなにかで髪を撫でられて、リシルの顔に笑みが浮かぶ。ああ、気持ち良いな……。それがなにか確かめたくて、ゆっくりとまぶたを開くと、薄い布の天蓋を背景に自分を見下ろしているアルヴァーの優しげな...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「お帰りは夜になるかと思っていましたが、早いお戻りですね」「客人を待たせるわけにはいかないからな」どこか楽しげなディータを横目に、アルヴァーと呼ばれた男はリシルの正面に歩み寄り、ふわりと片膝をついた。風の精が存在するのなら、このような仕草で立ち居振舞うのだろうか。艶やかな黒...

荒野の果てに嫁ぐもの

前の話へ 目次へ 次の話へ「すごい…っ 」知らずに感嘆の声を漏らしたリシルだが、坂を昇りきった馬車の周りには、彼が生まれて初めて見る風景が広がっていた。東西のはるか彼方に青い山脈が小さく見える他は、果てしなく続く荒野。見事なまでの視界の広さの中にあるのは、右手に今昇ってきた道の脇にあった渓谷の亀裂と...

荒野の果てに嫁ぐもの

目次へ 次の話へガタガタと二頭立ての馬車の列が、勾配のきつい坂を駆け上がって行く。緑の少ない赤茶けた渓谷に、馬車の後を追いかける土煙がたなびき、車輪に弾かれた小石が、からからと乾いた音を立てながら、深い谷底へと転がり落ちていく。時刻は、もうすぐ真上に陽が昇ろうかという頃だ。前後に二輌ずつの幌馬車を従...

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