荒野の果てに嫁ぐもの 第6話 男の花嫁?

荒野の果てに嫁ぐもの 第6話 男の花嫁?

荒野の果てに嫁ぐもの 第6話 男の花嫁?

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「なんだ?」

 

ゆるりとくつろぐ姿勢で先を促すアルヴァーに、リシルは少し迷いながらも疑問を口にした。

 

「なぜ、わたしにこのような扱いを……?」

 

「なにか足りないものでもあるのか?ああ、食事がまだだったな。昼もとっくに過ぎているし、俺も腹が空いたところだ」

 

と、横を見やると、「すぐにご用意致します」とディータがお辞儀をして退室する。

 

リシルは、アルヴァーと二人きりになってしまって焦った。緊張の度合いが、ぐんと跳ね上がった気がする。

 

「い、いえ!その…、そういうことではなくて、逆に待遇が良すぎる、というか…」

 

「そうか?ここは都のような豪華なしつらえでもないし、食事もどちらかというと質素だ。文句を言われても、ここではそれ以上の物は出てこないしな」

 

「違うのです!その…っ、…私は、アレジア様では、ありません……」

 

「そうだな。それはさっき確認した」

 

さっき、と聞いて、また顔が赤くなったリシルだが、ここで怯んでいては話が進まない。ぶるぶると頭を振って、先ほどの出来事を追い払うと、向かいのアルヴァーをひたと見つめる。

 

「わたしはあなたを騙そうと、ここへやって来ました。…いわば、罪人です。もちろん、どのような咎めがあろうと、甘んじて受けようと思っています。でも……」

 

「勝手が違ったというわけか?」

 

笑いを含んだ言葉に、リシルは素直にこくりと頷いた。

 

アルヴァーは、頭の切れる男なのだろう。察しが良く、こちらの考えがお見通しと言わんばかりの表情だ。

 

リシルは観念して、正直に自分の気持ちを話すことにした。もちろん、アレジアの居場所だけは秘密にして。

 

「貴族のお嬢さんは、俺との結婚が嫌で逃げ出したんだろう?それで、おまえが代わりにきた。俺の花嫁になるために、な」

 

「……はい、男で花嫁の身代りになれるとは思いませんが、アレジア様の役に立ちたかったのです」

 

「ふ…ん。そんなにそのお嬢さんに入れこんでいたのか?」

 

「入れこんで、なんて……」と、リシルは首を振った。

 

「命の恩人の恩に報いたかったのです」

 

「命の恩人、か」

 

「はい。アレジア様は死にかけた私を救ってくださったのです」

 

微笑んだリシルに、アルヴァーがふっと吐息のような笑いを漏らした。

 

「義理堅いんだな。そのお嬢さんは、そこまでおまえに慕われて幸せだろうな。まあ、俺にはどうでもいいことだが」

 

「えっ?」

 

リシルは小首を傾げた。

 

どうでもいいことって?

 

「いや、むしろ感謝すべき存在か。俺を嫌ってくれたおかげで、おまえという花嫁が来たんだから」

 

「……?」

 

「俺は、おまえを身代りとは思っていないからな」

 

「は…あ?」

 

アルヴァーの言葉の意味が瞬時に理解できずに、リシルは間の抜けた声を上げてしまった。

 

ミガワリ ト オモッテイナイ? とは、どういう意味だろう?

 

自分がここに来たのは、アレジアの代わりとなり、彼女達の逃亡の時間を稼ぐこと。

 

しかし、充分な時間稼ぎはできず、正体がバレてしまった時点でその目的は果たしたとは言えないので、そういう意味では身代りにはなれなかったのだが。

 

どうも、相手の言う意味は違う気がする。その前の「おまえという花嫁が来たんだから」という言葉に引っ掛かりを感じたが、そのまま意味が通るわけがない。

 

だって、自分は男なのだから。

 

「理解できていない顔だな」

 

思案顔のリシルの様子に焦れて、アルヴァーが溜め息を吐いた。

 

「おまえは俺の花嫁になるということだ」

 

「…? しかし、わたしは男ですが……」

 

「それも知っている。さっき見たからな」

 

にやついたアルヴァーの言葉にまたも頬を赤らめるリシルだが、突っこむべきところはそこではない。

 

男を花嫁に、なんて、正気だろうか、というところだ。

 

もちろん、そんなことはあるまいと思いながらも、ここは失礼を承知で訊いてみるしかないだろう。

 

「それは冗談、ですよね?まさか、男のわたしを花嫁に、なんて……」

 

「俺は真顔で冗談を言えるほど、器用じゃないぞ」

 

と、アルヴァーがこちらに向ける眼差しは、確かに真剣で、頑として譲らない意志を感じる。

 

……ありえない…… 。

 

相手の本気を前にして、リシルは呆気に取られていた。

 

何をどうすれば、そういうことになるのだろう。

 

この巨大な城の主が、見ず知らずの闖入者を自分の妻にするというのか。

 

絶対にありえない…っ!

 

リシルは頭を抱えこんで唸った。

 

言葉の意味は理解できたが、その内容は前代未聞の珍事だ。そんなことを、はいそうですか、と受容できるはずがない。

 

これは、一城の主を騙そうとした罰なのか。だが、見せしめにするにしても、アルヴァー自身も主の威厳を落とすことになるのではないか。

 

男を妻にするなんて、いい笑い者になるだけだ。そんなリスクを犯してまで、自分を花嫁にするのはおかしいだろう。

 

それに、男の自分には、逆立ちをしたって子供は産めない。跡継ぎはどうするのか。

 

「アルヴァー様には、お世継ぎが必要なのではありませんか? それならば……」

 

女性が…と続けようとしたリシルの言葉を、「そんなことか」とアルヴァーは一笑に付した。

 

「それはなんの問題もない。俺は子の成せない身だからな。逆に女の方が面倒だ」

 

「子の成せない…?」

 

不躾なことを訊いてしまった気がして、リシルは俯いて視線を泳がせる。

 

子供のできない身体、ということだろうか?

 

それは、男性として、この城の主として、伏せておきたいことではなかったのだろうか。

 

そうだとすると、自分の言ったことは不快な愚問だったかもしれない。

 

今更だが、なんてことを訊いてしまったんだろう、と、リシルは肩を落とした。

 

配慮のない自分を省みて、溜め息が出る。

 

不意に、向かいからくすりと笑う声が聞こえて、リシルは顔を上げた。

 

アルヴァーがくっくと笑っている。

 

なにがおかしいのだろう?

 

「おまえは、本当に思ったことが顔に出るな」

 

にやりと人の悪そうな笑いを浮かべるアルヴァーに、リシルは顎を引いた。

 

そんな顔をされると、なぜか構えてしまう。リシルの周りには、こういう扱いをする人はいなかったので、どうしてもアルヴァーの言動に振り回されてしまう形になるのだろう。

 

今も居住まいを正すリシルに反して、アルヴァーはどこまでも砕けた態度だ。

 

「ちなみに憐れみや同情は不要だぞ?別に身体に不具合があるわけでもないし、性欲も人並みにある。なんなら試してみるか?」

 

「えっ? いっ、いいえっ!!」

 

一瞬なんのことだかわからなかったリシルだが、いくら晩生でも、遅ればせながらその意味は理解できた。

 

珍しくも素っ頓狂な声を上げて、後ろの枕に身体を押し付けて縮こまる。その様子に、アルヴァーがげらげらと笑い出した。

 

「か、からかっているんですか!? 冗談はやめてください!!」

 

顔を赤くして睨みつけるリシルだが、ひとしきり笑ってから笑いを収めたアルヴァーは、どこ吹く風の涼しい顔をしている。

 

いや、リシルの反応を楽しんでいる風でもあった。

 

そういうところが、リシルに苦手意識を抱かせる。この手のからかいには、まったく免疫がないのだ。

 

そう、これはただのからかいだと思っていたのだが。

 

「それが冗談じゃない、といったら?」

 

ひたと細めたアルヴァーの瞳に見つめられ、リシルは空気が変わったのを感じた。とろりと甘く、淫靡な雰囲気に。

 

そう感じた途端、丸めたリシルの背中がぞくぞくっと震える。

 

「おまえは俺の花嫁だろう?」

 

「いえ、だから、それは…っ」

 

「花嫁となれば、愛し合うことも普通だな?」

 

「あ、愛し合う…っ?」

 

オウム返しのように言ってから、リシルの頭からぼん!と蒸気が噴き出した。

 

こ、この人はなにを言い出すんだろう? 

 

男同士で愛し合う、なんて!

 

ぶんぶんと勢い良く首を振りながら後ずさるリシルを、にやりと眺めるアルヴァー。

 

突拍子もない展開に面食らいながら、リシルは自分の身の危機を感じていた。

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